森の木々は背伸び競争中?

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この冬、京都東山の森の中を歩いてみました。ここは、観光スポットである哲学の道にほど近いところです。
常緑樹の葉が生い繁り、森の中に入ると驚くほど薄暗い。地面は、落ち積もった木の葉でふわふわした感触。時々渡る鋭い鳥の声。街の喧噪がかすかに伝わってくる。冷たい凜とした空気。森は人のこころを安らげます。ふと上を仰いだとき、私が見たのはこの光景でした。
木の葉はほぼ同じ密度で、空を覆っている。そしてところどころに割れ目があり、冬空を垣間見せている。この割れ目は実は、一本の木と他の木々との境界になっています。その証拠に、風が吹き渡ると、木ごとに揺れ方が違い、割れ目が太くなったり細くなったりしているのです。
これは、木々の縄張りだと言えるでしょう。この森は、同じ種類の木々が生えていて、互いに日の光を求めて、高く高くと競い合っているようです。同じ種類の木々はほぼ同じ条件で、同じような高さで葉を繁らせ、できるだけ多くの光合成をしようとするでしょう。そこで木々の一番高い所で葉を繁らせて樹冠をつくり、面積争いになるのは理の当然、というところでしょうか。
そう言えば、この森は樹冠の下の部分は薄暗く、木々はその部分にほとんど葉を繁らせておらず、ガランとした空間がひろがっています。この森に生えている木を一本とりだしてみれば、葉の繁りはてっぺんの一番高い部分に、平面的に集中して他の部分には全くない状態になります。これは、周囲に日光を遮るものがない、孤立樹のこんもりした樹冠を対比して想像すると、ずいぶん様子が違います。木々にとってどちらがいいのでしょうか。
それは木々に聞いてみなければわからない、ということでしょうか。
人間の競争世界に疲れて、森の中にさまよいこんだのですが、思わぬところで競争原理に行き当たってしまったのでした。

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