◆二条城の夜は、きのこの輪舞(ロンド)で盛り上がる?
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・ウォルト・ディズニーのアニメ映画『ファンタジア』をご存じでしょうか?子供たちが小さかったころ、『となりのトトロ』とともに、せがまれて何度も何度も繰り返して一緒に見たビデオの一つです。この映画は何度見ても見飽きない楽しいものです。
・秋から冬の自然の美しさ。ミッキーマウスの魔法使いの弟子の失敗談。また生命の起源から、恐竜の絶滅まで、ストラビンスキーの『春の祭典』の劇的な構成によって、言葉の解説抜きで、生き生きと、大人も思わずわくわくするように表現されていることに驚かされます。しかもこの作品が、第二次世界大戦の間に作られていたと知れば、一層驚きです。
・この『ファンタジア』の中に、中国(清朝)風の服装をした、きのこたちが輪になったり、列をつくったりして、楽しげに踊るという場面があります。子供のきのこの愛らしさが、笑いを誘い、この作品の中でも、子供たちのお気に入りの場面なのです。
◆ところで、先日(9月15日)に私は久しぶりに、家族連れで二条城にでかけました。
・大政奉還を決定した部屋といったものを見学し、広い庭園を巡り、出口に近い所で、子供がすっとんきょうな声をあげました。
・声の指す先を見ると、広い緑の芝生の上に、きのこが生えているのです。しかもそれは、芝生の上に丸く円を描くように、生えているのです。(写真を見てください)
・まさに、きのこがダンスをしている、という風情です。
こんなきのこでした。
・きのこが円環状に生えてくることがある、ということは私は知識としては知っており、実際にそれに近いものを、他の場所で見たこともあるのですが、これほど完全に円形をしたものは初めて見たのでした。
・きのこは円環をなして生えているのですが、よく見ると、きのこの生えていない部分も、円環状に芝生の緑が濃くなっているのです。この円環は3、4メートルくらいの直径があります。
・はじめは、芝生の濃くなった部分は、きのこが下から生えかけているのかと思ったのですが、近付いてよく観察しても、その芝生の濃くなった円環部分には、きのこは生えてはおらず、ただ芝生の芝の成長がよくて、緑の色が濃くなっているだけなのです。
・何かきのこが生える部分には、芝の成長を良くするような栄養といったものが増えるのでしょうか。
◆おそらくこの円環の中心に、きのこの胞子が一つ舞い降りたことから、物語りは始まるのだと思います。その胞子はその点から四方八方に菌糸を伸ばして、勢力を拡大していきます。そこは平らな芝生の上ですから、遮るものは何もありません。そしてある時点になるとほとんど同時に、きのこの菌体を成長し始めるのではないでしょうか。
・おそらく、芝生の下の土の中には、クモの巣のような菌糸のネットワークがあり(これはまさにインターネットを想像させますね)、何らかの連絡を取り合っているとも考えられます。
・あるいは、何か時限装置のようなものがあらかじめ各菌糸の中に埋め込まれていて、その条件が満足されるとほぼ同時に、円環状にきのこが生えてくる、といったことも考えられます。
◆子供のころ私は、母親が何かの料理で使う甘いタレを、広口のガラス瓶に密封して保存していたのを、フタを開けてみて驚いたことがありました。タレの濃い褐色の表面に、三重四重の同心円状の白い模様が浮き出ていたのでした。これはよく見ると、その液体の上にカビが生えていたのです。
・私はその幾何学的な美しさに、しばらく見とれていたものです。
・そしてこんなに美しい模様を生み出す自然の不思議さに強い印象を受けました。それ以来、こういった自然の生み出す美しい文様や幾何学的な図形に、興味をもってきました。
・このカビの場合も、一つの胞子が液体の表面に降り立って、それから均一な培地の上を、周囲へと広がって行ったことが想像できます。
・そしてある地点で、細胞分裂をするライフサイクルに当たり、その地点で密度が高くなり、肉眼で目立つようになります。これが幾度か繰り返されます。この事情は、どの方向にも当てはまるので、結果として同心円の模様が形成されることになるのでしょう。
◆他の場所にもないものかと、二条城の庭園を探したところ、もう一カ所ありました。これはきのここそ生えてはいませんでしたが、芝生の色が円環状に濃くなっていたのです。
・この円環は、最初のものに比較すると小ぶりで、直径が約2メートルくらいでした。
◆さてこんなことを考え、子供と話しながら家に帰りました。「今夜もきっと、きのこたちは音楽に合わせてダンスを踊るんだろうね」「踊るんだろうね」「ちっちゃな子供のきのこも踊るんだろうね」「踊るんだろうね」「夜になったら、こっそりもう一度来たいね」「来たいね」、という会話が交わされたのでした。
・その夜は月の明るい夜でした。