『方丈記』より(2)

竜巻

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 また治承四年(1180年)四月二十九日のころ、中の御門京極の辺りから大きな辻風が起こって、六条辺まで、きつく吹いたことがあった。

 三四町にわたって吹きまくったが、その範囲にあたった家などは、大きいものも小さなものも、ことごとく壊れてしまった。さながらぺちゃんこになってしまったものもある。桁と柱だけが残ったものもある。また門の上を吹き払って、四五町ほどもさきに飛ばされたものもある。また垣根が吹き飛ばされ隣と一続きになってしまったものもある。

 ましてや家の中の財宝はことごとく空に舞い上げられ、桧はだ葺きの板のたぐいは、冬の木の葉が風に吹き乱れるのと同じだ。塵を煙りのように吹きたてるので、なにも見えなくなる。はげしく鳴り響く音に、声はかき消され聞こえない。あの地獄の業風であったとしても、これほどのものだろうかと思われる。

 家が破壊されるばかりでなく、これを修理するあいだに怪我をして、身体が不自由になってしまったものは数知れない。この風は未申(ひつじさる、南西)の方角へ移動して、多くの人の嘆きをうみ出した。辻風は普通に見られるものだが、こんなひどいのは初めてだ。ただ事ではない。さるべきものの予兆かなどと疑ったものだ。