■「こころのくせ」(1)
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□こころの習慣
人はそれぞれ、特徴的な考え方のパターンというものをもっています。これをDr.Itoは「こころの習慣」と呼んでいます(一般に、認知療法の世界ではこれを「自動思考」と呼んでいますが、この言葉は日本語として、しっくり来ません)。

・この「こころの習慣」は、それぞれの人のこころの中に深く染み込んでいて、本人が気が付かない間に出て来て、働くものなのです。
・従って、そのパターンにすっかりはまっていたとしても、本人は自覚していないことが多いのです。
・例えば、身近かな人にこう言えば、ああいうように反応してくるだろう、といった具合に、前以ておおむね想像がつくことがあります。これは、長い間一緒にすごしている人の「こころの習慣」を私たちが、理解しているからなのです。
・往々にして、ご本人は気が付いていなくても、周囲の人々は知っているといったことはあるものです。
・このように「こころの習慣」は誰にでもあり、またそれがその人の特徴を形作っているとも言えるのです。
・この「こころの習慣」は、その人が生まれてから、子供時代・思春期・青年時代をへて成人に至るまで、経験し学習してきたことから成り立っているものと想像されます。
しかも恐らく、人生の初期に学習したことほど、しっかりと身に染み込んでおり、容易にそれを自覚することが出来にくいものであるように思われます。逆に、成人してから学習したことは、比較的容易に自覚できることが多く、それを修正していくことも《比較的に》容易であることが多いように思います。
□ストレスに抵抗力の弱い「こころのくせ」
・こういったなかで、特にそれを持っているとその人にとって具合の悪いものを、Dr.Itoは「こころのくせ」と呼んでいます。
「こころのくせ」は、それをもっていると気分が滅入りやすく、落ち込みやすいものです。

・というのは、人間の気分や感情というものは、その人の置かれた客観的な状況によって決まるものではなくて、その状況をその人が『主観的に』どうとらえるか、ということに左右されるという事情があるからです。
・この辺りの事情をよく表現しているのが、エピクテートスの
「人を悩ませるのは、事柄そのものではなくて、事柄に関する考えである。」
という言葉なのです。
・言い換えれば、人間は全く同じ状況に置かれても、それをどう捉えるかによって、その人の感じ方、次の行動が変ってきます。例えば、困難な状況に出くわした場合に、それに対して立ち向かっていく人、あるいはそれを悔やんで立ち往生してしまう人、というように様々な反応が有り得るのです。
・この中には当然、ストレスに対する抵抗力の強い感じ方・考え方、抵抗力の弱い感じ方・考え方という区別があるのです。
・ここで認知療法は、抵抗力の弱い考え方・感じ方というものを問題にするのです。というのは、このような感じ方・考え方は、人を現実的な解決へと導くものではなく、感情的にへこませるように作用するものなのです。
・認知療法では、このような感じ方・考え方のことを「認知の歪み」と表現していますが、この言葉も随分人のこころを逆なでする言葉です。何せ、そう言われる人の立場に立てば、「こころが歪んでいる」と言われるのと等しい語感があります。その点、「こころのくせ」という表現は、事態を正確に表現している上に、人のこころを逆なでするようなことはなく、更には修正の可能性を示唆してもいるからです。

・このような「こころのくせ」をもっている(特に、自覚しないでもっている)場合、いつの間にか、自分の気分がそのような感じ方・考え方に支配されてしまって、『うつ』的な状態に陥ってしまうものだからです。
・抵抗力の弱い「こころのくせ」は、経験的にいくつかのパターンに分類することができます。この分類は、細かくすることも可能なのですが、あまり細かくても実際の役に立たなければしかたがありません。
・そこで、Dr.Itoは、この抵抗力の弱い「こころのくせ」の典型的なものを5つ挙げています。
・これについては次回に解説することにしましょう。
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